国連広報センターはレイシスト団体「在特会」に情報提供の枠を超えた便宜供与を行なうべきではない


まきやすともが逮捕された一件については、「東村山市民新聞」の迷宮〈まきやすとも・お礼参り的面談強要事件〉で紹介した一連の経緯や関連動画を見てもらえれば、ほとんどの人にとってはどちらが「常軌を逸している」中野区長宛ての申し入れ書より)のか一目瞭然だと思いますので、今日はいちいちつっこみません。


後は警察の取り調べに委ねればいいだけの話で、中野区長がこんな連中と会う必要はありませんが、社会運動標榜ゴロによる行政・議会対象暴力に警鐘を鳴らすため、何らかの公式見解は発表していただいた方がいいでしょう。Twitterで次のようにつぶやいておきました


東村山問題が対岸の火事ではないのと同様に、中野問題対岸の火事ではない。現に、地方議員の自宅や事務所に集団で押し掛ける示威行動は頻発している。全国の地方議員はこの現象を注視した方がいい。」


「地方議員の自宅や事務所に集団で押し掛ける示威行動は頻発している」については、たとえば市川市の「シークレット売国奴叩きツアー」の模様や、宝塚市議事務所への度重なる襲撃の報告(1月13日付2月10日付)などを参照。


さて、昨日(19日)行なわれた国連広報センターへの抗議活動についていくつか報告が上がっていますので、今日はそっちについて取り上げておくことにします。


日本に「国連本部」がないことには流石の瀬戸サンも気付いたようで、新しいエントリーでは国際連合の建物」と書いています(ただし、3月20日午後5時現在、「国連本部」という間違いは訂正されていない)。有門大輔は『国際連合大学』への抗議行動と書いており、弁士の中にも国連大学職員に向かってトンチンカンな抗議をしていた人間がいるようですが、桜井誠・在特会会長が報告しているように、今回の抗議対象は国連大学ビル内に入っている国連広報センターです。


今回の抗議の背景となった国連人種差別撤廃委員会の勧告については、以下の記事を参照。


名指しこそされていないとはいえ、在特会等の活動が背景となって朝鮮学校に通う子供たちを含む諸集団に向けられた、あからさまで露骨な発言および行動の継続的発生」「インターネットを通じた有害な人種主義的表現および攻撃」に対する懸念が表明され、しかるべき措置をとるよう政府が促されたことは事実ですので、それに対する抗議や意見表明を合法的手段で行なうのは自由です。この件が人権NGO等の間で広まっていけば、選挙の時だけアムネスティや自由人権協会の名前を利用する矢野穂積・朝木直子両「市議」の行状に対する関心が、少しは高まるのではないかという期待もあります。


しかし、抗議する側も、それに対応した国連広報センター側も、いろいろ間違っているのではないかという感が否めません。桜井の報告をもとに少し検討を加えておきます。


桜井 「委員会で在特会が撮影した動画が流されたようだが?」
岡野 「NGOパネルの席上1分間ほど流された。」
桜井 「公の場で著作権者に連絡なく動画を流すことを国連として是認するのか? 」
岡野 「国連は関係ない。問題があるというなら最初からYoutubuにあげなければいい。」
桜井 「では無断で動画を流したNGO側と直接話をするので、どこのNGOなのか教えてほしい。」
岡野 「報告書は出ているので、自分で調べれば良い。」


京都朝鮮学校襲撃事件の件ですが、朝鮮学校側は襲撃の模様を自分達で撮影した英語字幕付きの動画を早い段階でアップしており、NGOパネルの場で流されたのも、おそらくその動画(またはその短縮版)でしょう。



したがって著作権云々の問題は生じませんので、次に行きます。


桜井 「今回の委員会報告の中で、朝鮮学校の違法行為を正した在特会などの行動をレイシズムと指摘する部分がある。左翼NGOの一方的な糾弾は受け入れられない。当事者として委員会への反論を述べたいのだが?」
岡野 「委員会へのクレームがあるならジュネーブへ直接行ってくれ。」
桜井 「あなたの先ほどからの話は喧嘩を売っているようにしか聞こえない。ジュネーブへ実際行けるかどうか分からないのか? そもそも、そこは国連の広報センターであって、窓口の対応として『ジュネーブへ行け』などいうのは正しい対応だと本気で思っているのか?」
岡野 「私の対応のどこに問題があるか分からない。それに先ほどから人種差別撤廃委員会について国連国連と言っているが、委員会は国連とは関係ない組織だ。だからここでは対応できない。」
桜井 「そんな馬鹿な話はない。そもそも、人種差別撤廃委員会は国連総会の決議によって成立した人種差別撤廃条約を元に設置された委員会のはずだ。」「あなたの対応はあまりにも問題がありすぎる。直接会って話がしたい。」


「直接行ってくれ」というのは「直接言ってくれ」という趣旨ではないかとも思いますが、どちらにせよ、国連広報センターではなく委員会に直接抗議してくれという要求は正当です。在特会およびその関係団体は、一足飛びに「国連への抗議行動」などと騒ぐのではなく、まずはどこに抗議すればいいのかを教えてもらうという姿勢で臨むべきでした。


国連における人種差別撤廃委員会の位置づけについては、国連広報センター側の説明が少々混乱しています。


桜井 「では、まず岡野氏の対応についてお伺いしたい。文句があるならジュネーブへ行けとはどういう了見か?」
妹尾 「おそらく言葉のやり取りに問題があったのではないか? 実際にジュネーブへ行けということはないと思う。私たちもジュネーブへ出張できる予算などない。ただ、岡野の発言であなたに不快な思いを与えたのならお詫びしたい。」
桜井 「もうひとつ、岡野氏は人種差別撤廃委員会は国連と関係がないとはっきりと私に言ったが、これは事実か? 事実なら新聞メディア各社が報じている『国連人種差別撤廃委員会』の表記を直ちに是正しなければならないのでは?」
妹尾 「岡野の発言は誤りです。人種差別撤廃委員会は国連の組織内にあります。」


「委員会は国連とは関係ない組織だ」という岡野氏の発言は言い過ぎですが、「人種差別撤廃委員会は国連の組織内にあります」という妹尾氏の説明も間違っています。国際法上、人種差別撤廃委員会は人種差別撤廃条約に基づいて設置された独立機関であり、国連とは密接な協力関係にあるものの、国連の組織内機関ではありません。外務省のパンフレット『国際社会と人権』(PDF)に掲載されている組織図(1ページ)で、A規約委員会(これのみ国連内の組織)以外の人権条約委員会が挙げられていないのも、そのためです。



とはいえ、委員会への報告書の提出等は(形式上)国連事務総長を通じて行なわれることになっていますし、委員会の事務局機能は国連人権高等弁務官事務所が担っていますから、事実上の国連機関として理解してもいいでしょう。


したがって国連人権高等弁務官事務所に抗議文でも何でも送付すればいいわけですが、ここで話があらぬ方向へ流れていきます。


桜井 「委員会の報告書で取り上げられた朝鮮学校問題に関連して、日本の子供たちが遊ぶための児童公園を不法占拠状態においていた朝鮮学校を正した在特会側の行動がレイシズムなどと誹謗中傷を受けている。一方的な非難に対し反論の場を与えてほしい。」
妹尾 「趣旨は理解できる。広報センターにできることは限られているが、たとえば今回の委員会の報告書に在特会として反論文を作成してはどうか?」
桜井 「日本語での作成ならできるが?」
妹尾 「翻訳はこちらで手伝えると思う。広報センターからジュネーブの委員会へ送付する。広報センターから送られたものは、必ず委員会の担当者が一読することになっているのであなたの主張は少なくとも人種差別撤廃委員会へ直接届けられることになる。」
桜井 「了解した。早急に反論文を作成してこちらに提出したい。」


いやいや、そんな便宜供与はまずいでしょ。そもそも、人種差別撤廃委員会に情報提供したNGOも英訳等は自分達でやっているはずで、そんなのをいちいち国連広報センターが引き受けていたら業務がパンクする恐れがあります。人権侵害の明らかな被害者で、他に支援者もいないという状況ならまだ理解もできますが、朝鮮学校の子供達に向かって
「お前らウンコ食っとけ、半島帰って」
「スパイの子どもやないか」
朝鮮学校を日本から叩き出せ」
「キムチくさいねん」
密入国の子孫やんけ」

などの罵声を浴びせかける在特会レイシスト以外の何者でもなく、そんな連中に対して翻訳の援助や文書送付の代行といった便宜を供与すれば、国際公務員としての規律違反になる可能性が高い。


したがって、国連広報センターが本当にこのような約束をしたのであれば直ちにそれを撤回し、今後の抗議等は国連人権高等弁務官事務所の担当者に対して直接行なうよう求めるべきです。


なお、桜井は
「本来ならこれは日本代表部が行うべき仕事です。国連委員会の報告書だからといって反論しないこと自体が問題なのであり、日本政府の無能無策といって良い外交に代わって、民間の在特会が委員会へ直接反論文提出を行います」
とも書いていますが、日本政府には委員会の勧告に対する見解を表明する権利があり、現に前回も「人種差別撤廃委員会の日本政府報告審査に関する最終見解に対する日本政府の意見の提出」を行なっています。「お前らウンコ食っとけ、半島帰って」等の発言を政府に容認させることによって日本の恥を世界に広げたいのなら、国連広報センターに筋違いな抗議を行なってないで、まずは政府に対して働きかけを行なえばよろしいんじゃないですか。