無知とウソで塗り固めた「在特会」反論書面(2):GHQの命令を根拠に朝鮮学校や在日朝鮮人の法的地位を否定する自称愛国者の不思議な植民地根性


在特会が国連人種差別撤廃委員会に送付した反論書面へのつっこみを続けます。それにしても、反論書面の筆頭に置かれた次の段落には、多くの人が呆気にとられたのではないでしょうか。


まず基本的な認識として委員会に対し指摘しますが、日本は大東亜戦争第二次世界大戦または太平洋戦争とも表現されます)に敗戦し1945年から1952年まで連合国によって占領されました。連合国軍最高司令官総司令部(以下、GHQと表記)の統治下に入りました。委員会が報告書の中で言及している「朝鮮学校」とは、実際には社会治安を乱す暴徒の巣窟(テロ組織)として連合国軍最高司令官総司令部が占領期間中(1948年)に日本政府に対して閉鎖命令を出した機関です。従って、国際連合傘下の組織たる委員会にとって「朝鮮学校」とは今現在、存在するはずの無いものです。朝鮮学校問題を言及するのであれば、まず時間を58年前に戻して朝鮮学校の閉鎖命令を解除しなければなりません。


サンフランシスコ講和条約(1952年発効)によって日本国民が主権を回復し、日本が国際連合に加盟(1956年)して半世紀以上が過ぎてなお、GHQの命令を根拠として「『朝鮮学校』とは今現在、存在するはずの無いものです」などと主張する団体が主権国家・日本に存在するなど、人種差別撤廃委員会の委員も予想だにしなかったことでしょう。


「日本は日本人のもの」などと声高に主張する割に、どれだけ植民地根性の持ち主なのでしょうか。在特会が在日韓国・朝鮮人をもっぱら攻撃し、米軍の「在日特権」をほとんど(まったく?)取り上げない理由はここにあるのかもしれません(初老のトクさん〈米軍に「出て行け」とは言えない「在特会」〉も参照)。


言うまでもなく、GHQが発した命令の多くは、サンフランシスコ講和条約の発効に伴い、「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律」(昭和27年法律第81号)によって廃止されています。いまなお効力を有している命令もありますが、これも法律で存続のための措置がとられたことによるものです(以上Wikipedia「ポツダム命令」等参照)。そして、在特会の言う朝鮮学校の閉鎖命令」はこのような存続措置の対象にはなっていません。


そもそも1948年の朝鮮学校閉鎖令とは、GHQの意向により文部省が発した学校教育局長通達「朝鮮学校設立の取り扱いについて」に基づいて、都府県知事によって出されたものです。その後、在日朝鮮人聯盟の解散命令にともなって文部省管理局長・都道府県特別審査局長通達「朝鮮人学校に対する措置について」が発出され、「中立」系とされた白頭学院(1949年10月)を除くすべての朝鮮学校が閉鎖されました。現在設置されている朝鮮学校は、その後再建・新設され、都道府県知事によって各種学校としての認可を受けているものです。


したがって、「まず時間を58年前に戻して朝鮮学校の閉鎖命令を解除しなければなりません」という在特会の主張こそ「基本的な認識」を誤っており、二重三重の恥さらしであると言わざるを得ません。


GHQの命令に関しては、瀬戸弘幸サンも次のように書いていました。

 GHQは1946年に朝鮮人帰国指令というのを出していますが、これは当時の日本においては絶対的な命令と同じであり、在日朝鮮人はこれに従わざるを得なかった。と言うよりは「強制連行」ならば自ら進んで来たわけではないので、帰国するのが当然です。
〔中略〕
 この帰国指令に従わずに居座ったという時点で、法律的には「不法滞在者」であり、3世・4世はその末裔ということになるのではないでしょうか。
 だから「朝鮮人は出て行け!」は民族差別でもなければ、排斥でもありません。それなりの理由があるわけです。
 勿論、これは特別永住資格の付与が取り消された時点で初めて有効となるわけですが、主張することまでが批判されるべきことではありません。
瀬戸弘幸ブログ〈「在日強行連行説」急に聞かれても把握していない岡田外相〉)


GHQの指令がどうあれ、在日韓国・朝鮮人はその後合法的な在留資格を認められて日本に定住しているのであり、仮に在日3世・4世が「不法滞在者」の末裔だったとしても、日本から出ていくよう要求する理由にはなりません。「勿論、これは特別永住資格の付与が取り消された時点で初めて有効となるわけですが」と書いていることからして、自覚はしているようですけれども。


それ以前に、1946年の朝鮮人帰国指令」「当時の日本においては絶対的な命令と同じであり、在日朝鮮人はこれに従わざるを得なかった」という話自体、非常に怪しい。これは「在日朝鮮人帰国の計画輸送の指令(1946-11/01)」として流布されているものだと思いますが、結構頑張って検索してみても、このような文書の存在を特定することはできませんでした(もちろん私が見つけられなかっただけかもしれませんので、どこかに存在するなら出典と本文を教えてください)。


戦後の朝鮮人等の送還に関わる主要な基本資料はこちらにまとまっていますが(〈戦後朝鮮人の送還について〉シリーズ本文も参照)、随所で「送還特権」という言葉が用いられていることなどからしても、GHQは帰還を希望する朝鮮人等に対して最大限の便宜を図るよう命じたのであって、朝鮮人の強制帰還を命じたとは思えません。「強制連行」説を否定する根拠として高市早苗衆院議員が紹介している資料「在日朝鮮人の渡来および引揚げに関する経緯、とくに、戦時中の徴用労務者について」(昭和34年7月11日)を見ても、そのように理解できます。


したがって、「この帰国指令に従わずに居座ったという時点で、法律的には『不法滞在者』であり、3世・4世はその末裔ということになるのではないでしょうか」という瀬戸サンの主張も、やはり二重三重に誤っていると考えざるを得ません。愛国者を自称する人々がなぜGHQの命令を唯々諾々と受け入れて平然としているのか、非常に不思議です。