「厳然たる事実」を認めたがらない人々


東村山市民新聞」は、4月8日付更新は「最終更新日」の修正のみでしたが、4月9日付でトップページがチョコチョコ更新されていました。


これについては次の記事あたりで触れるとして、瀬戸サンが〈黒田大輔『日本を護る市民の会』代表の裁判支援行動(3):アンチブログの焦りぶりが可笑しい。〉という記事をさっそくアップし、私が昨日付の記事の中でついでに触れておいた件にのみ反論しています。また、なんだかんだでこの記事を書くのが4月9日の午後になってしまったのですが、その間に、新たに〈朝木明代さん万引き冤罪・殺害事件まとめWiki〉というエントリーもアップされました。“焦りぶりが可笑しい”って感じですかね。まあいろんなことが起きてますしね。


それはともかく、不思議なのは、私が指摘した3つの「厳然たる事実」、すなわち
(1)万引き「冤罪」および「他殺」の事実(またはその可能性が高いこと)を認めた判決はひとつもないこと
(2)一連の裁判の結果、矢野・朝木両「市議」はもはや「創価学会が殺した」とは言えないこと
(3)洋品店店主が万引き「でっち上げ」に関与したなどという主張には、一連の裁判で一片の真実も認められていないこと
については完全にスルーしていることです。記事に直接リンクしてくれないのも、これに触れたくない/これを見られたくないためでしょうか。「まとめWiki」の作成も結構ですが、一連の裁判の結果を無視して自分の言いたいことだけを言っても、「真相解明」には決してつながりません。この点については、2008年9月2日付〈矢野穂積・朝木直子両「市議」と瀬戸弘幸氏には本当に真相解明を求める気があるか(いやない)〉ですでに次のように指摘しておきました。

真相解明のために再捜査を求めるなら、過去のさまざまな判決で否定されてきた主張や“証拠”を馬鹿のひとつ覚えのように繰り返すのではなく、ひとつひとつの判決を精査し、これまでの認定を覆すに足る論理と主張を提示するべきでしょう。そのような作業がなければ、法治主義をとるこの日本で、捜査機関を動かせるはずもないし、動かすべきでもない。街宣なんかやってる場合じゃないんじゃないでしょうか。けっきょく真相解明などは名ばかりで、低レベルのプロパガンダに過ぎないということですかね。


そもそも「内部告発」の話はどこに行ったんですかね。また、朝木「市議」は検察庁に対する再捜査請求を本当になさったのでしょうか。


前置きはこのぐらいにして救急車辞退問題の話題に移りますが、私が瀬戸サンのおっしゃりたいことをつかみそこねたのは事実のようです。要するに瀬戸サンは、
モスバーガーの店員・店長と朝木明代市議との間で「救急車を呼びますか?」「いいです」などというやりとりはなかった、そんな証言者がいたなら名前を出せ”
とおっしゃりたかったのですね。


XENONさんもあらためて書いているように、これは瀬戸サンの書き方が悪かったと思います。真意の読み取りにくい文章を書いて、「本当に困った人達ですね」などと言われても困る。また、うずくまっている人を見て「大丈夫ですか」「救急車を呼びますか」と声をかけることに不自然さはないという、XENONさんや私の指摘にも、瀬戸サンは何ら答えていません。


まあ、瀬戸サンがこのようなことを言い出した意図が、「自殺に持って行きたい警察が、そのような調書を誘導して作り上げた」(Posted by せと弘幸 at 2009年04月08日 21:35)という結論を導き出すためであることもわかりましたので、それはよしとしましょう。


それにしても不思議なのは、ジャーナリストを名乗る瀬戸サンが、そして裁判の結果を「厳然たる事実」として認めろと主張する瀬戸サンが、“当時の新聞記事には書かれていない、だからそんなやりとりはなかった”などという主張を平気で行なっていることです。


なた5963さん(清風匝地)も指摘しているように、「新聞には一言一句逃さず書いてあるもので、載っていないならそれは事実ではない」などという考え方は、ジャーナリストならずとも、失笑の対象にしかならないでしょう。


事件発生翌日(9月2日午後)の記者会見で、取材慣れしているとは思えない飲食店店長が、すべての重要な事実を漏らさず語るなどと想定できるでしょうか。なた5963さんがコメント欄で「記者が聞かないから答えてないだけだろ」と述べているように、記者から質問がなければ言い漏らすことも多々あるでしょう。共同記者会見の反訳は全文ではないと思われますが、「記者になりすまして」潜入した「朝木さんの支持者」(Posted by せと弘幸 at 2009年04月08日 21:35)もこの点については質問しなかったのではないですか。


ちなみに、『民主主義汚染』によると、9月2日の夕刊で「明代が、救急車を断ったこともきちんと報じ、その段階で早くも『自殺』の見出しを打った社もあった」そうです(150頁)。もっとも、媒体名が書かれていませんし、共同記者会見に基づく記事かどうかもわかりませんので、紹介するだけに留めておきます。


ちょっと話がそれますが、瀬戸サンは次のように書いています。

 このような事件に関して、先ず発見者であり、現場に立ち会った人に記者が話を聞くなら、当然自殺なのか、他殺なのか、そのどちらかなのかを判断しようとします。
 「救急車を呼びますか?」と訊いて、「いいえ」という答えが返ってきたなら、誰だって自殺の線が濃いと判断してそのように書きます。
 しかし、いずれの新聞も自殺とも他殺とも決めかねないで記事にしたことが、当時の新聞記事で明らかです。


自殺なのか、他殺なのか」という問題の立て方が、そもそも後付けの話です。当時「他殺」説を主張していたのは矢野・朝木両「市議」側だけで、一般紙の記者は、そんなことは考えもしなかったか、考えたにしても可能性は低いと思っていたのではないでしょうか。


当時焦点になっていたのは、「自殺なのか、他殺なのか」ではなく、「自殺なのか、事故なのか」という点のはずです。瀬戸サンが紹介しているいくつかの記事を見ても、デイリースポーツだけは「自殺 他殺?」という見出しを打っていますが、日経新聞は「同署〔東村山署〕は事故、自殺の両面で慎重に原因を調べている」と書いています。


また、資料屋◆bfimNvQTbのブログでは事件発生直後の三大紙の記事の概要が紹介されていますが、9月2日付の夕刊では、朝日と読売は「自殺」と「事故」の2つの可能性に言及し、毎日は「(東村山署は)自殺した可能性もあるとみている」と報道していたそうです。当時から「他殺」の可能性が一般的に共有されていたかのような書き方は、なさらない方がよろしいでしょう。


話を戻して、上記のように“当時の新聞記事には書かれていない、だからそんなやりとりはなかった”という主張は成立しないのですが、それ以上に、モスバーガーの店員と朝木明代市議との間で「救急車を呼びますか?」「いいです」という趣旨のやりとりがあったことは、複数の裁判で認定されています。裁判の結果を「厳然たる事実」として受け止めろという瀬戸サンが、どうして一転して裁判の結果を無視するのでしょうか。


「聖教新聞」事件の地裁判決についてはすでに紹介しましたし、瀬戸サンも記事の中で引用しています。これが千葉さんの証言に基づく事実認定であることを問題視しているようですが、「証人千葉の証言及び弁論の全趣旨」によって、裁判所がこれを事実として認めたことには変わりがありません。


他の裁判の判決も紹介しておきましょう(以下、太字は引用者=3羽の雀。また、丸付数字はカッコ付数字に修正し、固有名詞も適宜修正した)。まず救急隊事件の地裁判決では、次のように述べられています(第3 争点に対する判断1(3)ア)。


〈戊木〔救急隊員、仮名〕は、丙沢〔同〕らから少し遅れて下車し、K巡査長と、そばにいた女性から具体的状況を聴取して、傷病者の住所、氏名は不明であること、事故の原因については不明だが、上方から墜落した可能性が高いこと、明代が救急隊の出動要請を拒んだこと等を聴取した後にゴミ置き場に向かった〉(ことが、本件各証拠及び弁論の全趣旨によって認められる)


これは「争いのない事実」ではなく「争点に対する判断」ですので、おそらく裁判の過程で争われた結果、このような事実認定が行なわれたものでしょう。その後の裁判の結果も踏まえ、この「そばにいた女性」というのはモスバーガーの店員であると判断されます。


この点につき、瀬戸サンは「朝木明代さんを『自殺』と決めつけているサイトの記事には、朝木さんが救急車の隊員に『飛び降りた』と話をしたなどという捏造までが書かれている」と書いています。私はそんな記事を見た記憶がありませんので、よければ出典を示してほしいものです。瀬戸サンは昨年10月のエントリーで同じことを書いていますが、そのとき、なた5963さん(清風匝地)も、「そんなことを書いた覚えはないし、他のところでも見た覚えはないが?/よければそのソースを提示して欲しいですね」と求めています。


あとはだいたい同趣旨の認定が行なわれていますので、箇条書きで示しておきましょう。


『潮』事件東京地裁判決
〈千葉は,前記店長や店員らから亡明代の発見状況等を聴取したところ,・・・(3)同店長が,何度か「大丈夫ですか。」と声をかけたところ,亡明代はその都度「大丈夫。」と答えるとともに,店長が「落ちたのですか。」と尋ねたのに対し,左右に顔を何度も振りながら「違う。」とはっきり否定したほか,本件ハンバーガー店の店員が「救急車を呼びましょうか。」と申し出たのに対して,「いいです。」と答えたこと・・・等の事実が判明した。〉(第3 争点に対する判断2(3)オ)
〈前記(3)のとおり,・・・(2)亡明代が,落ちたのですかという問いに「違う。」,救急車を呼びましょうかという問いに「いいです。」と答えたこと・・・が認められる。こうした事情からみると、亡明代の死因が自殺であるとみる余地は十分にあるというべきである。〉(同(7))


「創価新報」事件地裁判決
〈千葉は、本件ハンバーガー店の店長や店員らから明代の発見状況等を聴取したところ、・・・c同店長が、何度か「大丈夫ですか。」と声をかけたところ、明代はその都度「大丈夫。」と答えるとともに、店長が「落ちたのですか。」と尋ねたのに対し、左右に顔を何度も振りながら「違う。」とはっきり否定したほか、本件ハンバーガー店の店員が「救急車を呼びましょうか。」と申し出たのに対して、「いいです。」と答えたこと、・・・等の事実が判明した〉(ことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない)


「創価問題新聞」事件東京高裁判決(第3 当裁判所の判断2(2)イ(ア)b)
〈東村山署の捜査により、同時刻ころ、同マンション1階のハンバーガー店の店員が転落した明代を見かけたが、酔っぱらいではないかと思い気にとめなかったこと、午後10時30分ころ、同店店長が血を流して倒れている明代を発見し、明代に「大丈夫ですか」と声をかけたところ、明代は「大丈夫」と答え、店長が「落ちたのですか」と尋ねると、明代は顔を左右に振り「違う」と否定し、同店店員が「救急車を呼びましょうか」と申し出たのに対して、明代は「いいです」と答えて断ったが、同店店員は午後10時42分ころ、警察に通報したこと〉(が、証拠及び弁論の全趣旨により認められた)


というわけで、朝木直子「市議」が「救急車を母が断ったという話は自分達は確認していない。つまり、そのような話を聞いていない」といくら主張しても、それは一連の裁判では受け入れられていないということです。


自殺に持って行きたい警察が、そのような調書を誘導して作り上げた」という瀬戸サンの「結論」も、現段階では、妄想とまでは言わなくとも、せいぜい根拠の希薄な仮説に過ぎません。ちょっと前に「国策捜査・陰謀論」を批判して次のように述べていた瀬戸サンですから、もう少しちゃんとした主張を展開していただきたいものです。

 もし、あくまでもこれを国策捜査であると主張し続けるなら、その理由をもう少し国民にも理解できるようにしなければなりません。
(1)罠(ワナ)というなら、それは誰がどのようにして仕掛けたのか?
〔中略〕
(3)捜査関係者からの情報が悪いというなら、それを打ち消すだけの情報を自ら発信していかねばならないでしょう。


なお、「その後、アルバイト店員は何故かしゃべらなくなった」という点については、『民主主義汚染』に次のように書いてありましたので、参考までにご紹介しておきます(156頁)。事実かどうか、即断はしませんけどね。

直子は、明代の容体を気づかって「救急車を呼びましょうか」と声をかけた第一発見者の19歳の女性アルバイト店員に接触し、明代が救急車を断るなどあり得ないと、その証言を頭ごなしに否定し、彼女を非難したという。自分の母親が万引きしたあげくに自殺したなど、娘として信じたくない気持ちはわかる。しかし、赤の他人でありながら、最後まで明代を心配し、激励していたアルバイト店員に対して、遺族として礼を述べるのが先ではなかったか。このアルバイト店員が直子の態度に憤慨したのは当然だったし、その後、警察がこの店員をいっさい表に出さないようにしたのも当然の措置だった。


〔この記事は4月9日の午後にアップしたものです。〕