幻の「決定打!」完全不発記念新スレ(16)


【注/以下の記事は、掲示板「職業差別を許しません!」の〈ウォッチ継続・幻の「決定打!」完全不発記念新スレ〉に投稿したものを、必要最小限の修正を加えた上、各投稿を行なった日付の記事として当ブログに再掲したものです(2009年3月)。これ以外のスレッドについては〈「職業差別を許しません!」スレッドガイド〉参照。】


そろそろ「判例」も出尽くしたようなので新スレに移る時期かなと思いますが、そもそもどうしてこんなトンチンカンな騒ぎになったのか、最後に振り返っておきましょう。


発端は、シンブン公認ブログにおける、「ちょっと覗いてみましたが、法律、判例は」なる人物の書き込み(2007/08/06 09:18)でした。

性風俗も職業だとご主張のみなさん
◎【職業安定法63条(強制労働・有害業務)】
次の各号のいずれかに該当する者は1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金に処する。
(2号) 公衆衛生または公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集もしくは労働者の供給を行った者またはこれらに従事した者
◎「公衆道徳上有害な業務」に関する判例
「トルコ風呂においてトルコ嬢が行ういわゆる「本番」サービスはもとより、「スペシャル」サービス業務も公衆道徳上有害な業務である(東京高裁昭和41年12月16日) 」
性風俗の「仕事」は全て「公衆道徳上有害な業務」。「公衆道徳上有害な業務」のために募集をしたお店も、お店を紹介した求人誌も違法行為していることになります。薄井氏もこれです。


その次に、「私も一言」なる人物が、おそらく最高裁判例検索システムで探し出した神戸地裁判決を抜粋して掲載します(2007/08/06 11:28)。上記「東京高裁」判決が見つけられなかったためでしょう。見つかりっこないのですが、そのわけは後述します。


そして8月6日の夜までにシンブン・サイトが更新され、「ついに薄井問題に決定打!」と騒ぎ出したわけですね。


さて、すでに気づいている人もいるのではないかと思うのですが、上記の書き込みのネタ元ははっきりしています。いくら何でも彼らがこれを根拠として出してくることは考えにくいので、ここらで明らかにしておきましょう。


上記書き込みのネタ元は次のページです。サイト開設者の意思を尊重してリンクは張りませんが、「風俗求人広告の謎」等でググればすぐ出てきます。


ナ ニ ワ 風 俗 道 〜実務に役立つ風営法講座(笑)〜
 ● 風俗求人広告の謎


自称「しがない風俗ファン」の管理者が、「ワシも決して法律の専門家でも何でもないんやが、色々と勉強して書いてみた」という講座です。STD等の問題も取り上げられており、なかなかまじめな内容だと思います。


さて、肝心の「風俗求人広告の謎」のページには、次のような記述があります。

この〔職業安定法〕63条2号を見てほしい。「公衆道徳上有害な業務」のために募集をしたお店も、お店を紹介した求人誌も、これに引っかかる恐れがあるんや。この「公衆道徳上有害な業務」については、次のような判例がある。
 トルコ風呂においてトルコ嬢が行ういわゆる「本番」サービスはもとより、「スペシャル」サービス業務も公衆道徳上有害な業務である(東京高裁昭和41年12月16日)
ちと古い判例やから耳慣れん用語が出てくるが(笑)、要するに風俗の仕事は全て「公衆道徳上有害な業務」なんや。


ここでの理解に誤りがあることは、これまで指摘してきたとおりです。まあ厳密な法律論を交わすサイトではありませんし、執筆者も法律の専門家ではないので、それはそれでしかたのない面もある。それに、求人誌発行については「引っかかる恐れがある」で留めており、慎重な姿勢も見せています。


ところが、「ちょっと覗いてみましたが……」氏は、この記述をうのみにして、それどころか求人誌発行まで「違法行為」と断定して、上記のような書き込みをした。矢野・朝木両「市議」は、ネタ元を知ってか知らずか(おそらく承知のうえで)、「法律家・研究者の方々の応援により急展開!」などと大騒ぎを始めたわけですね。うぷぷぷぷぷ。


このページがネタ元であることは、上記の書き込みの内容からも十二分に推測できていました。また、「萩山町7丁目」なる人物が、「目立つとふんづかまる場合もあるのでは」などと下品な口調で書き込みをしていたのも(2007/08/08 01:01)、「風俗求人広告の謎」で次のように書いているのを念頭に置いたものだろうと考えていました。

風俗店で「どんなサービスをしていいのか」というのは、グレーゾーンになっとる。(中略)そこで何が行われとるかはK察も当然知っとるが、目立たんように大人しく営業しとれば、見逃してくれるんや。


そして、朝木「市議」が国会図書館でいっしょうけんめい裁判例を探してきてくれたおかげで、推測が確信に変わったのです。私もこの「東京高裁」判決を探してみたのですが、見つからなかった。それはそうです。だって本当は「東京地裁」判決ですから。シンブンが「判例6」として挙げているものです(東京地判昭41・12・16)。


それを「東京高裁」の判決として紹介した「ちょっと覗いてみましたが……」氏が、「風俗求人広告の謎」の間違いをそのまま引き継いでいることはもはや明らかですね。それどころか、原文の記述に含まれていた法的解釈の間違いを増幅させて紹介した。矢野・朝木は、自分たちが侮蔑してやまない「風俗ファン」の、しかも法律の素人の解説をもとにして、この暑いさなかに騒ぎ続けたわけです。とんだ「法律家・研究者の方々の応援」があったものですね(笑)。


しかし、矢野・朝木と比べ、「ナニワ風俗道」の執筆者は風俗嬢のことをきちんと気にかけています。たとえば、「ちょっと覗いてみましたが……」氏がもとにした記述には、次のような続きがあるのです。

……要するに風俗の仕事は全て「公衆道徳上有害な業務」なんや。こうした規制のおかげで、どれほど風俗嬢が迷惑しとる事やら(笑)。せめて、「公衆道徳上有害な業務の紹介・募集をする場合は、業務内容を詳細に説明し、本人の納得を得なければならない」とでも定めてくれた方が、現実的やと思うがなぁ。


さらに、職業安定法63条2号の第一義的目的が「労働者保護」にあることも、おそらくは具体的な判例などひとつも見ていないであろうにも関わらず、しっかり押さえています。

―お店を探し中なんだけど、前にいたお店の店長から、しつこく電話がかかってくるよ。「女の子が足りないんだよ〜、今なら稼げるから戻ってきてよ〜」って。ウザいから電話番号変えようかなぁ?
電話を変えんでも、エエ方法があるがな。最初に紹介した職安法63条2号が、珍しく役に立つんや(笑)。もう一度紹介しとくで。
(条文略)
前に言うたように、この「公衆道徳上有害な業務」には、風俗のお仕事全てが該当する。で、その店長は、まさしく「労働者の募集」をしとる(笑)。こんど勧誘の電話がかかってきたら、「店長、職安法63条2号をご存じ? 10年以下の懲役または300万円以下の罰金なのよ〜」って言うたったらエエ。(中略)
…で、ウザい店長を片付けたら、安心して次の仕事を探せばエエ。女の子の方から自発的に「公衆道徳上有害な業務」に応募するのを取り締まる法律は無いからや(笑)。


さて、矢野・朝木が「労働者保護」に一片の配慮も見せず、それどころか差別的言辞を弄しまくっていることは、周知のとおり。


矢野・朝木は、自分たちが侮蔑・軽蔑・罵倒する「風俗ファン」の見解から都合のいいところだけ引っ張ってきて2週間も踊りまくったあげく、人間として、あるいは政治家としてひとりの「風俗ファン」にはるかに及ばないことを、はからずも明らかにしてしまったわけです。


いや〜、一連の騒ぎはおもしろかったんですけど(笑)、同時にげんなりしますね。