「生活の本拠がない」といえば議席譲渡事件


言いがかりとしか思えないような「取り調べ」の様子を早々に薄井市議によって明らかにされて焦っているのでしょうか、シンブンは早々と(22日午後2時前)3月23日付の更新を行ない、トップページの記述を次のように修正しました。


「生活の本拠」は東村山と日野の両方だと言ってきたのを、21日尋問では否定。言い逃れしても、最高裁判決の壁!
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「佐藤は東村山と日野の両方に居住の事実がある」との選管認定を示され絶句! 言い逃れしても、最高裁判決が壁!


「選管認定」というなら根拠を示してもらいたいものですね。あらためて東京都選挙管理委員会の裁決書(PDFファイル)を読んでみましたが、次のような認定しか見出すことはできませんでした。

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仮に、佐藤が家族と別居しているとしても、当該期間を含めて佐藤の生活の本拠は継続的に東村山市にあったと認められ、これに反する事情は認定できないというべきである。

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ここでいう「当該期間」とは、平成19年4月の市議会選挙前の3カ月(平成19年1月22日〜4月22日)のことを指します。「当該期間を含めて」ですから、平成15年4月の当選以来、佐藤市議の「生活の本拠」は東村山市にあったことが認められています。


シンブンでは「生活の本拠」ではなく「居住の事実」という表現に変更しており、どうやらまた情報操作・印象操作をしようとしているようですが、これから紹介する最高裁判決でも述べられているように、争点は佐藤市議の「生活の本拠」が東村山市にあったか否かですから、仮に佐藤市議がときどき日野市のマンションで家族とともに過ごすことがあったとしても、問題にはならないはずです。


シンブンではもうひとつ、〈こんなことやっていいの?!前代未聞の「越境通勤市議」〉というページも修正されています。このページの「ついに発覚した公選法違反詐偽登録・詐偽投票疑惑!」というコラムは、朝木「市議」らによるストーカーまがいの張り込みの“成果”を誇らしげに報告した「東村山市民新聞」152号(2006年10月31日付)の記事を再掲したものですが、最後のほうに次のような記述が付け加えられました(太字が追加部分)。

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形だけ住民票を移して3ケ月たったから、選挙権・被選挙権が行使できるわけではない。移した先で生活していなければダメなのだ とりわけ、離婚もしてないのに、妻子とは別に車で30分の市外に一人だけ「別居」する理由など逆立ちしてもありえない。あたかも離婚を前提として妻子と別居していることをほのめかすような口ぶりですが、まったく根拠がありません。平気で、東村山と車で30〜40分の日野市多摩平を往復しているのです。

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ゲスな人たちですねえ。「口ぶり」というのは21日の証人尋問における佐藤市議の発言を指しているものと思われますが、だったらはっきりそう書いてはどうなんでしょう。しかも「まったく根拠がありません」って(笑)、それこそ何を根拠にひと様の家庭の事情に口をはさむのでしょうか。佐藤市議にはお子さんもいらっしゃることですし、車で30〜40分の距離なら必要があれば頻繁に往復もするでしょう。別れた妻子のことなどどうでもいいという「市議」もいらっしゃるかもしれませんが、それを人に押しつけてもらっては困ります。


さて話は変わって、シンブンがけっして具体的に明らかにしようとしない「最高裁判決」ですが、東京都選挙管理委員会の裁決書をもとにいくつか調べてみましたので紹介しておきましょう。


まず、矢野・朝木両「市議」の主張では「最高裁判所大法廷昭和29年10月20日判決」が言及されています。これは、「およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、・・・その住所とは各人の生活の本拠を指すものと解するを相当とする」と判示した判決です。


しかしこの判決は「住所=生活の本拠」という解釈を示しただけで、「生活の本拠」の定義は明らかにしていません。この点につき、東京都選挙管理委員会の裁決書は次のようにまとめています。

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ここで「住所」とは、生活の本拠、すなわちその者の生活に最も関係の深い一般生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決されるべきものである。

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その根拠として2つの最高裁判決に言及しているのですが、そのひとつ、最高裁の昭和35年3月22日判決では次のように述べられています。「公職選挙法第九条第二項の住所とは、その人の生活にもつとも関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものと解すべく、私生活面の住所、事業活動面の住所、政治活動面の住所等を分離して判断すべきものではない」


そしてもうひとつが最高裁の平成9年8月25日判決です。これこそ、朝木直子矢野穂積両氏が引き起こした、かの有名な、有権者を愚弄する前代未聞の「議席譲渡事件」に関する判決です。そこでは次のように判示されています(一部漢数字をアラビア数字に変更)。

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公選法10条1項5号、9条2項によれば、「引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有すること」が市町村議会議員の被選挙権の要件の一つとされているが、ここにいう住所とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である

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ご覧のように、東京都選挙管理委員会は基本的にこの「議席譲渡事件」最高裁判決で示された定義に依拠しています。おそらくこれが公職選挙法の「住所」の定義に関する最高裁の最新判例でしょうから、矢野・朝木両「市議」も「等」で済まさずにしっかり言及してほしいものです。当事者だし


東京都選挙管理委員会はこのような定義を踏まえ、佐藤市議の「生活の本拠」は一貫して東村山市にあったと認定しました。


他方、「議席譲渡」事件最高裁判決は、平成7年市議会選挙の当選人決定の時点で朝木直子氏の「生活の本拠」が松戸市にはなかったと判断した事例です。「生活の本拠がない」とはたとえばどういうことなのかを考えるために、判決をもとに事実関係の概要を示しておきましょう。ウェブに掲載されている判決では関係者が匿名になっていますが、A=朝木直子、B=矢野穂積、C=故朝木明代です。わかりやすいようにここでは実名で示します(敬称略)。


(1)平成7年4月に行なわれた東村山市議会議員選挙では朝木明代が1位、朝木直子が4位で当選し、矢野穂積は次点となった。この選挙で当選した東村山市議会議員の任期は、同年5月1日から平成11年4月30日までである。
(2)朝木直子は、次点者である矢野穂積を当選させるため、平成7年4月26日午前、市選挙管理委員会を訪れ、当選の辞退を申し出た後、東村山市長に対し松戸市紙敷への転出届を提出した。同日午後、朝木直子は再度市選挙管理委員会を訪れ、右転出に関する転出証明書を添えて、同日松戸市に転出したため被選挙権を失った旨を届け出た。
(3)市選挙管理委員会は、繰上当選決定のための選挙会を何度か開催したがなかなか決まらず、5月21日開催の継続選挙会でようやく次点者矢野穂積を当選人とすることが決定された。
(4)なお、朝木直子の転出先とされた松戸市紙敷の住所は、直子の父の部下一家が住む社宅であった。直子は、5月9日には父が役員をしている会社の代表者所有のワンルームマンション所在地(松戸市松戸)への転居の届出をし、5月29日には松戸市馬橋の第三者所有の賃貸マンション所在地への転居の届出をした。


このような「議席の私物化」の無効を訴えて市民有志が起こしたのが「議席譲渡」事件裁判ですが、争点は、市議としての任期が始まる5月1日までに朝木直子の「生活の本拠」が松戸市に移っていたかというところにありました。「生活の本拠」が松戸市に移っていたのであれば、被選挙権の喪失により当選人としての資格を失ったということになるためです。最高裁は次のように述べ、これを否定しました(一部漢数字をアラビア数字に変更したうえ、適宜改行を挿入した)。
 

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朝木直子は、本件選挙の当選人の告示の後、当選を辞退し、次点者の矢野穂積を当選人とすることを目的として、急きょ、松戸市への転出の届出をしたものであり、同女が単身転出したとする先は、父の部下一家が居住する社宅であった上、その後、わずかの間に、いずれも松戸市内とはいえ、二度にわたり転居の届出をしているというのである。
そうすると、仮に、朝木直子が、現実に平成7年4月26日以降松戸市紙敷で起居し、同年5月29日以降は松戸市馬橋のマンションを生活の本拠としているとしても、松戸市紙敷の前記社宅は生活の本拠を定めるまでの一時的な滞在場所にすぎず、せいぜい居所にとどまるものといわざるを得ない。これによって、従前の全生活の中心であった東村山市から直ちに松戸市に生活の本拠が移転したものとみることはできない。・・・
一定の場所が住所に当たるか否かは、客観的な生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであるから、主観的に住所を移転させる意思があることのみをもって直ちに住所の設定、喪失を生ずるものではなく、また、住所を移転させる目的で転出届がされ、住民基本台帳上転出の記録がされたとしても、実際に生活の本拠を移転していなかったときは、住所を移転したものと扱うことはできないのである。
結局、・・・平成7年4月30日までに、朝木直子の生活の本拠が松戸市内に移転し、朝木直子東村山市内に有していた住所を失ったとみることは到底できないものというほかはない。

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なるほど、こういう場合には「生活の本拠」がなかったと判断されるのですね。どっちにしろ佐藤市議のケースとは無縁ですが。